映画バ−チャルトラベル

ここでは自分の思い入れのある映画について熱く語ってみました。「山の焚き火」を除いて、どれもビデオレンタル屋さんで借りれるメジャ−な作品ばかりです。映画って本当に”安上がりな旅”ですよね。20世紀人類最大の発明っていうのも素直に頷けます。


Giornate di Sodoma Pier Paolo Pasolini

イタリアって国は映画監督の分野でも相当に個性の強い人を輩出してますよね。セルジオ・レオ−ネ、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルドリッチ、名前を列挙しただけでも血と暴力の臭いが漂ってきます。極めつけがこの人、パゾリ−ニです。2000年はパゾリーニ再評価の当たり年だったのかもしれません。雑誌で特集が組まれるは、NHKで紹介されるは、あげくのはては都内の映画館で昔の作品が数本公開されたりして、とにかく驚きました。正直、日本でこんなに人気があると思わなかったです。でも、結局パゾリーニって何を伝えようとしたのだろうという疑問に明確に答えられる人はいないんじゃないでしょうか。パゾリーニ自身も本作品について必要以上に多く語ろうとしていません。なかには大島渚のようにパゾリーニはわからないからいいんだというような暴言を平気で口にする人がいて面白いです。見る人によって、これほど解釈が異なる映画もめずらしいのでは。ラストの唐突なダンスシーンがこの作品の難解さを象徴しているようです。かって、パゾリーニはこんなことを述べていました。「<ソドムの市>はミステリーだ。”ミステリー”という言葉そのものじゃないか? 中世風の神秘劇、神聖なる演技・・・よって不可解なのだ。だから、きっと理解されないに違いない。これが理解されたら、恐ろしい」(ギデオン・バックマンとの対話より)
日本では衝撃的な死因のおかげで破壊的な性的異常者、いわゆるきわもの的イメージが先行していますが、本国イタリヤでは理論派の共産主義者として、またイタリアを代表する詩人として地位と名声も確立してました。生前は自他共に認めるスタイリッシュな紳士だったようです。25年前に制作された本作は、21世紀を迎えようとしている現在でも毒のある鈍い輝きを放っています。あっ、ご飯の前には絶対に見ないでください。食欲がなくなることを保証します。


Reservoir Dogs Qentin Tarantino

日本でもファンが多いタランティーノのデビュ−作。最近ブル−タスでも特集やってましたねぇ。自宅にシアタ−とか作ってて、とことん映画好きなんだなと思いました。これほど女性が前面に出てこない映画も珍しいです。そのかわり、どんな女も惚れてしまいそうなワイルドな男達がやたらでてくるんです。キャスティングの段階で成功が約束されたといっていいでしょう。この映画でブレイクしたといってもいいハーベイ・カイテルなんて、昔のスコセッシの作品に出てた頃のデ・ニ−ロっぽい危険な臭いがプンプンします。ちょっとホモっぽいっていうか。(笑) その他にもスティーブ・ブシェ−ミとか、マイケル・マドセンとか癖のあるフェロモン出しまくりのアクターが脇を固めています。タランティーノ作品に登場するアクタ−はどれも一癖あってシビれるんですが、この作品はとくに際立ってますね。最近公開された「キルビル」とかはちょっとマニアックな演出についていけなかったけど、この「レザボアドッグス」にはオ−プニングからもってかれました。当時は単純に映画を見たっていうよりも、事件に遭遇したって表現がぴったりくるくらいインパクトがあったんです。タランティーノはこれ一本でスタ−ダムにのし上がっちゃいましたね。


Serial Mom John Waters

舞台はいわずと知れたボルチモア。この監督ほど好きか嫌いか好みがはっきり別れる人もいないんじゃないでしょうか。ピンクフラミンゴを受けつけなかった人もこれなら大丈夫かも。支離滅裂なウォータ−ズ作品の中でも比較的まとまっているほうではないでしょうか。キャサリン・ターナーが年増女にしか出せない濃いフェロモンを醸しだしていて笑えます。全編にウォ―ターズならではのヒップなブラックジョークが冴え渡ってます。何回見ても笑えるんですよね。筒井康隆の小説にも似たような話がありました。素のジョン・ウォータ−ズって、およそ悪趣味とは縁遠いインテリなんだと思います。否、インテリだからこそ悪趣味なのか?この手のテイストの映画ってアメリカンカルトム−ビ−に多いけど、ウォ―ターズ作品ってハリウッドでどういう評価をされているんでしょう?やっぱりインディ−ズ扱い?ちょっと気になります。


Barry Lindon Stanley Kubrick

ヨ−ロッパ中世を舞台にした1977年の作品。ご存知のように映像作家として別格の評価を勝ち得ている巨匠です。でも、キューブック作品の登場人物にはいまいち感情移入できないんですよね。というか、あえて本人がそうさせないようなスタイルで撮っているとしか思えないんです。良くも悪くも彼は徹底した唯物論主義者ではなかったかと。(オマエ、唯物論ってわかってんのか?とつっこまれそうですが) キューブックが愛や友情といったテーマで作品を撮るなんて考えられないし、むしろ環境、制度にといった深層心理下における束縛によって人間はどのような動物にでもなりうるといったことを執拗に描いてました。もちろんそこには英国人気質とでもいうべきアイロニーとユーモアが程よく加味されているんだけど。だからこそ、その作風はどこか冷めていて、残酷で、クールな笑いと狂気が同居しているにもかかわらず、一部の人々(マニアックなファンが多い)から熱烈な支持を受けたんでしょう。数ある作品のなかではあまり評価が高いとはいえない本作ですが、個人的にはキューブリックの思想が最もダイレクトに反映されているように感じます。そこが単純に気持ちがいいし、好きな理由です。こういう職人気質の偏執狂的監督は、現代の興行優先のハリウッドにはもう出てこないような気がしますね。(S・ソダ−バ−グ監督をポストキューブックと推す人もいますが)
「スクリーンは魔法のメディアだ。それは他の芸術には決して真似のできないほど感情とムードを伝たえ、好奇心を保つことが可能だからだ」byスタンリー・キューブック。



Jacob,s ladder Addrian lyne

舞台はNY。デビット・フィンチャ−監督のゲームが良かったという人なら、この映画も楽しめる筈です。彼もフィンチャ−監督と同じくコマーシャル畑出身で、鋭いビュジュアル感覚には定評があった人です。(最近はあまり名前をきかなくなってしまったけど。)ストーリーは明かしません。こういうのを本当のホラー映画っていうのかも。何が現実で、どこからが虚構なのか。 このP・K・ディック的?とも呼べる偏執狂的妄想は、エイドリアン・ライン監督ならずとも誰もが一度は引かれるテーマでしょう。かって何本も似たような作品が制作されてきましたが、完成度はこれが頭一つ抜けているように思います。ティム・ロビンスはこういった打たれ強い主人公の役をやらせると本当に上手いですね。できれば失恋した直後とか、ただいま失業中とか、人生の不安定な時期に鑑賞してください。情緒不安定になることうけあいです。この手のサイコサスペンスをリドリー・スコット監督にも撮ってもらいたいです。


El sur Victor Erice 

母と息子、あるいは父と娘ってある意味すごくスリリングでミステリアスな関係なのかも。男と女でありながらSEXはタブーで、なおかつ他人は立ち入ることができない深い愛情で結ばれていると思うから。(最近はそういった社会システムが崩壊しつつあるけど) 
ある朝少女エストレリャが目を覚ますと父親の姿はなく、彼が大切にしていた振り子が自分のもとにあることに気づき、もう二度と戻らないことを悟ります。
物語が進行していくにつれて、父親の過去が徐々に明らかになっていきます。故郷、南(エル・スール)をあとにせざる終えなかった父。そこにはスペイン内戦の歴史が見え隠れしてきます。その村はかってファシズムであるフランコ政権に支配され、父親はファシズムに反抗する側の人間であり、村を追いやられていたのでした。
父親の乳母は、父と祖父の不仲についてエストレリャに語ります。「昔はお父さんが正しくて、それからおじいさんが正しくなった」と。
政治のことについて、エリセは言葉では語ろうとしません。美しい、詩的な映像によって、その悲劇がゆるやかに描かれます。 誰に知られることもない悩みを抱え込んだ父親は、その苦しみから逃れるために、家に振り子を残して自殺してしまいます。
一人映画館に通いつめる父親の人知れぬ孤独と、その苦悩に気付いてしまった娘の戸惑い。その心理的描写が怖いくらい瑞々しく、震えるような繊細なタッチで描かれています。
その存在じたいが奇跡とも呼べる作品。彼のもう一つの代表作「ミツバチのささやき」も必見です。



Paris,Texas Win Wenders

ナスターシャ・キンスキーがちょっと影のある娼婦を演じてます。これってめちゃくちゃハマリ役じゃないっすか!老けたとはいえ、あいかわらず近寄りがたい美貌を誇ってます。たとえば彼女のような美人が身近にいたとしても、その美貌ゆえにこちらが緊張してしまって、会話がスムーズに成立しないのではという畏れがあります。我ながら情けないですが。(笑)でも、こーゆータイプって実際に話しかけてみると、すごく気さくな女の子だったりするんだよね。(似たようなキャラに一昔前のイザベル・アジャーニとか、最近だったらス−パ−モデルのトリッシュ・ゴフとかがそんな感じ)ナスターシャ演じる人妻は、それなりにトラウマのある過去を背負っていて、もしかしたら素の彼女も似たような性格かもしれないと思うと妙に親近感が沸きます。ハリー・ディーン・スタントン演じる中年男が心身ともにボロボロになるのもわかる気がするなぁ。
テキサスの乾いた空気とライ・クーダ−のけだるいギターの音色が、ともすれば湿っぽくなりがちなストーリーにやさしく溶け合って、バランスのとれた佳作に仕上がってます。
ヴェンダ−スはこの映画と同タイトルの写真集も出していて、それも素晴らしい出来です。


Le Mari de la Coiffeuse Patrice leconte

ご存知、「髪結いの亭主」。エロいです。さすが、フランス映画です。悲劇的とも呼べるラストに共感できるかどうかが鍵かも。年に100本はみている映画好きのガールフレンドいわく、「恋愛って突き詰めれば、こうゆー結果に終わると思うのよね.」 なんてコメントしてました。なるほど、そうかもしれません。けど、やっぱり生理的に納得いかないものがあります。あの主人公の女は完全に自己完結していたんじゃなあいかと。小生が彼氏だったら「アホか!勝手に死にやがって!」の一言で片付けます。(笑) パトリス・ルコントが好きと平然といってのける女性を正面きって口説くような勇気をわたしは持ってはいません。だけど、そんな彼女は美人に違いありません。あたかもマチルドのような…。主役の親父の妙な踊りも最高です!


Midnight Express Aran Percer

トルコの刑務所が舞台です。本当にドラックで捕まってしまった人の実話に基づいているドキュメンタリ−色の強い作品。この映画を見たおかげで、イスタンブ−ルのイミグレや空港ではちょっと緊張しました。いや、別に大麻を所持してるわけじゃなかったんですけどね。(笑) ジョルジオ・モルダ−が音楽を担当してアカデミ−賞受賞してます。脚本はあのオリバ−・スト−ン。主人公が面会室の窓越しに、恋人の乳房を凝視しながらオナニーをするシーンが圧巻です。アラン・パーカー監督は、このシーンを猥褻にならないよう細心の注意をはらって撮ったとか。主人公が極限状態においても希望を失わず理性を保てたのも、自分を愛してくれる家族や恋人の存在が脳裏にあったからこそ。この美しすぎるオナニーシーンを見て、あからさまに嫌悪感を示す女性なら、即、別れた方がいいと思います。ってよけいなお世話か。主人公を演じた男優さんはこのあと本当に麻薬でお亡くなりになりました。合掌。
タイの刑務所を舞台にした「ブロ−クダウン・パレス」って映画もありますが、そっちも良かったです。どちらも海外で麻薬に手を出して捕まってしまうというお話ですが、本当にシャレにならんと思いました。実際に日本人で海外の刑務所にお世話になっている人知ってますから。(汗)



Hohenfeuer Fredi M Muller

スイス映画。邦題「山の焚き火」。有名な作品なので,タイトルだけはきいたことのある人も多いかも。でも、実際に観てる人は少ないんですよね、これ。カラックスやベネックスが好きで、「レンタルビデオ屋へ行っても、もう借りるのがなくなっちゃった。」とお嘆きのマリ・クレールなあなたにお奨めの映画です。
冬、スイスの山小屋で世間と隔離された生活を営む一家の物語。
知恵後れの弟と姉の近親相姦、両親殺害というショッキングな内容です。にもかかわらず、全篇を通じて静謐な雰囲気に満ちていて、このスト−リ−が不思議とリアルかつ自然な流れに思えて、なによりも罪の意識を感じさせないんです。それはこの物語における姐と弟との関係が、自己完結した究極の恋愛のモデルをあからさまに提示しているからでしょうか?自分の愛するものと二人でいたいという思いは、あらゆる他人を排除したいという気持ちに不可避的につながっていくのかも。いや〜、ディ−プですな。〈笑) この姐弟を密かに羨ましいと思った人がいて、ワタシはそのピュアな感性が羨ましく思いました。
全篇を通して、透明で日常を逸脱したシュールな感覚が妙に心地いいんですね。現実ばなれしているというか、映画の醍醐味を存分に味わえます。ロカルノ映画祭グランプリ受賞作品というのも納得。ちなみに写真はFredi M Muller監督本人資料がありませんでした。ちゅうかこの作品って、もうどこのビデオ屋さんにも置いてないんだよね。名作なのに…。


映画について語るのは面白い。人は自分の好きな映画を語るとき驚くほど饒舌になる。

by 四方田犬彦