贅肉落とし

 
アスファルトに焦げる肉片。
それは彼が残した最期のメッセージだった。
「あら、これ何かしら」
通りすがりの若い女が拾い上げた。不審そうに隈なく触り、口に含んでみる。
「あら、美味しいじゃないの」
女は噛み砕き、呑み込んだ。深い行動原理はない、ただ食べたかっただけだ。
「よおし、じゃあわたしも」
女はナイフを巧みに使い、脇腹に蓄積された贅肉を削ぎ落とした。アスファルトに肉片が落ちた。
残酷色をした赤肉は太陽の熱で黒に焦がされ、やがて香ばしい音を立てて焼けた匂いを薫らせた。
ふと、後から歩いてきた男が肉から立ち込める煙に気付き、拾い上げて眺めた。
「なんだこれ、肉じゃん」
男は口元に微笑を湛え、興味本位に肉にパクついた。舌で転がし味を嗜める。
「うん、美味しいじゃないか」
男が述べた感想は、女が述べたそれと似たようなものだった。
男は自分の贅肉を訳も分からず落したくなり、手で摘んで千切り落とした。
 
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