ツバサロン

 
人は皆、生まれながらにして大きな翼を持っています。
勿論、私にも大きな翼があったんです。
 
公園でクリームパンを頬張っていると、ハトが10匹〜20匹ぐらい近くによって来ました。
クックー・・・クルックー・・・クー
ハト独特の不快を感じる重低音に、私は気分を害しました。
ハトは私の気持ちを無視して、パンを持っている私のほうへ寄って来ます。
私があげると思っているのでしょうか。
果てまた、奪い取ろうとしてるのでしょうか。
真相の程は定かではありませんが、ハトは私との距離を徐々に詰めてきます。
10〜20匹のハトが間合いを詰めてきます。
 
私はパンの袋をハトの前に投げつけました。
だけど、ハトには通じません。
更に私との距離を詰めてきます。
赤い目をして、私との距離を詰めてきます。
私は少し怖くなって、ハトに石を投げつけました。
 
ハトは飛びました。
大きく空へと羽ばたきました。
一羽と残ることなく、私の前からいなくなりました。
 
私はほっと胸をなでおろして、再びパンにかぶりつきました。
パンの美味しさに喜びを感じていた時、再び、ハト達が帰ってきました・・・。
 
バサササササササササ・・・。
 
ハトは飛ぶ前の位置に戻ってきました。
そして、再び私のパンを凝視し、私のほうへと歩み寄ります。
私は恐怖を覚えました。
ハトの執念深さ、ハトの眼光に。
ハトは表情を変えることなく、少しずつ、私に近づいてくる・・・。
私は考えた。
この状況を打破するためには<、どんな行動を起こせばいいのだろうと。
 
考えるうちにある、一つの結論が浮かんだ。
ここから逃げればいいんだ。
走って逃げればいいんだ。
私は逃げた。
走って逃げた。
公園から逃げた。
ハトから逃げた。
恐怖から逃げた。
そして、全てから逃げた。
 
人は大きな翼を持っている。
逃げて、そして明日へ繋がるための行動する、自己防衛という大きな翼を。
私の翼は今まさに羽ばたいたのである。
 
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