痴呆

 
母と私と飼い犬のビッキ3匹で飯を食っていた時にそれは起こった。
メニューは冷やっこに、ごはん、玉子焼き、後は忘れた。
テーブルを囲んで、私は母と向かい合う位置に座っていた。お見合いみたいに。
直視するのも嫌なので、少し目線を下に向けて食べていた。
私が冷やっこに醤油をぶっかけていると、母は私にこんな事を言ってきた。
「ビッ! あっ、カズマサ。醤油とって」
えっ、ビッって? ビッってなんだ?
ここで出てきたビッって発音は何を意味するのだろうか。気になったので尋ねてみた。
「ビッって?」
すると、母は少ししぶり。
「あ、ごめん。ビッキと間違えた〜♪」
ビッキと間違えた〜♪
ビッキと間違えた〜♪
ビッキと間違えた〜♪
 
人は老いる。
私も老い、母も老いているのだろう。
その結果、母は私と飼い犬の区別がつかなくなった。
もうダメだ、ダメだこりゃ。
この分じゃ、老いたら退屈な事も簡単に忘れてまうわ。
あ〜あ、ダメだこりゃあ。
いかりやさんに、心からご冥福をお祈り申し上げるとします。
 
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