成人式の日記2
小学四年の時分。
端正な顔立ちをした少女が転校してきた。
腰まで伸びたロングヘアーに、当時では珍しい茶髪だった。
今となっては、カラーリングが流行って、街の風景と同化しそうなものだが、当時は黒髪が当たり前だった。何せ小学生だから。
彼女の茶髪はカラーリングではなく、生まれつきらしい。その事実を知ったのは、わたしが彼女に苛められていた時だった。
性格の悪い子だった。何かにつけて、人を見下すような傲慢な態度を取ってきた。我侭で、自分が世界の中心だと勘違いしていたのであろう。
わたしは当時から異質で、目立つ男だったので、彼女の目に留まってしまった。苛めがいがあったのかもしれない。
といっても、大したことはされていない。
わたしの歯ブラシに、歯磨き粉を大量にかけてきたぐらいだ。
洗い流せば済む話だった。しかし彼女が目を輝かせて反応を待っているので、仕方なく磨いてやった。辛くて、苦くて、吐きそうだった。
それでも、彼女が笑ってくれたから、嬉しかった。彼女に恋をしていたのだ。
六年生まで同じクラスだった、告白しようと思ったが言えず終いで、結局片思いで終わった。
中学校に上がり、彼女とは離れ離れになった。二度と同じクラスにはなれず、接点も失った。
そして七年の月日が流れた。彼女は今や、結婚して子供を産んでいる。
その事実に気づいたのは、成人式の終了後に開かれた、同窓会みたいな、タイムカプセルを開ける集会の時だ。成人式の日記に書いた話だ。
ここで、あの時書き留めなかった、わたしの胸の内を明かそうと思う。
本当は、彼女が結婚してくれて嬉しかった。
わたしは未だに彼女が好きだ、しかしそれは恋ではない、彼女が苦しむ様を見たかったのだ。
軽率な性交を行い、若くして結婚に踏み切るという堕落した彼女に興奮していた。
子供の頭を蹴り飛ばしてやったら、どれだけ悲しむだろうか。
想像しただけで、顔がにやけていた。
美人は、苦しんでこそ初めて輝ける。
わたしの持論だ。
彼女が死んだら、わたしは最高に幸せになれるだろう。
想像しただけで、胸が早鐘を撞くように高鳴る。
滴る涎を綺麗に拭き取らなければね。
彼女のお葬式が厳かに行われるその日まで、この興奮は止みそうにない。